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演劇・ミュージカル
「アラン・プラテル・バレエ団「聖母マリアの祈り vsprs」」 (up 2007/1/23)
アラン・プラテル・バレエ団
「聖母マリアの祈り vsprs」

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ベルギーのダンス・カンパニー、アラン・プラテル・バレエ団が昨年2月にパリで初演、絶賛を博した『聖母マリアの祈り vsprs』が待望の来日を果たす。バロック音楽の巨匠モンテヴェルディの『聖母マリアの夕べの祈り』にジャズとロマ音楽を織り込み、舞台上での生演奏でも魅せる本作は、解剖学・精神医学の権威ゲフッテン博士の遺した映像からインスパイアされたアラン・プラテルの最新作だ。「人々を分かつものと結びつけるものは何か(公式サイトより)」との問いかけを根本に、ダンサー達との共同作業で作品を構成してゆく同カンパニーの舞台。7年ぶりの日本公演となるこの貴重な機会に、コンテンポラリーダンス食わず嫌いの向きも、ぜひ劇場に足を運んでみてほしい。胸に迫るヒリヒリとした痛みと美しさは、決して他人のものではないはずだから。


≪the Point-1【挑発するダンス】≫

ベルギー、ブリュッセルの北西に位置する古い都市ゲントに本拠地を置くアラン・プラテル・バレエ団。 84年に振付家アラン・プラテルが処女作『スタバト・マーテル(悲しみの聖母)』を発表して以来、ヨーロッパでは常時いずれかの公演が行われているほど活気あふれるカンパニーである。アメリカで幼児教育を学び、更生プログラムにも参加の経験を持つプラテルは、「人々を分かつものと結びつけるものは何か」との問いかけを根本に置きつつ、ダンサー達との共同作業で作品を構成してゆく。90年代には三部作『ボンジュール・マダム』、『悲しみの共犯者』、『バッハと憂き世』が世界的なヒットとなり、パリ・オペラ座など名門劇場での公演も多数経験。FIFAワールド・カップ2006公式文化芸術プログラムとなった本作、『聖母マリアの祈り vsprs』は昨年2月のパリ初演以降、2年にわたって各地を巡演中である。
ブラウスにスカート、シャツとカーゴパンツなど、そのまま街中に出て行けるようなリアルクローズを着たダンサー達が、痙攣し、悶え、苦しみを直截的に表現するダンスが印象的な本作。それは私達の隣人が日常生活におけるある瞬間に、つるりと感情をむき出しにするさまを思わせて胸に迫る。ヒリヒリと痛く、美しい、目が離せなくなる舞台なのだ。


≪the Point-2【バロックという音楽】≫

16歳の夏、ゲントの教会でモンテヴェルディの『聖母マリアの夕べの祈り』を聞き、全14曲を口笛で吹けるほどお気に入りになったというプラテル。宗教音楽におけるエポックメイキングな作品として有名なこの曲は、バロック音楽の巨匠モンテヴェルディの特色がふんだんに盛り込まれている。いわく「感情表現に重点をおいた劇的な曲調」というもの。本来はポルトガル語で「いびつな真珠」の意味を持つ「バロック」音楽を本作で用いたプラテルにとって、その不協和音こそが必要な要素だったのだろう。「私にとってそれらはとてもうまく統合されていると思います。崇高な美と醜悪。それは、その音楽の感情を表す興味深い方法なのです」(英テレグラフ紙/公式サイトより)とのプラテルの言葉がそのまま彼の振付を表わして興味深い。
さらに舞台上では10人のミュージシャンが生演奏を担当。この曲にロマ音楽やジャズのテイストを織り込み、古楽器、ソプラノ、ヴァイオリン、サキソフォン、ギター、ベース、ドラムなどで展開するステージは、病院での一夜のパーティを垣間見るかのような迫力。大音量の中、無数の白いシャツで覆われた氷山のような大きな舞台セットに飛びつき、くずおれるダンサー達の姿は、現代社会で生きる自分達の姿に重なってゆく。


≪the Point-3【ビジョンとセラピー】≫

プラテルはベルギーの著名な精神医学者、アートゥール・ヴァン・ゲフッテン博士が記録した、痙攣や歩行困難などの患者を写した映像にもインスパイアされたという。20世紀初頭、精神治療に取り入れる意図で映像に残されたそのフィルムは後進の医学生にも伝えられ、現在はベルギー王立映像資料館に保存されている。プラテルは本作の制作にあたり、この映像をダンサー達に見せたほか、ゲントの精神病院内にある博物館にも案内したとか。その結果、モンテヴェルディの『聖母マリアの夕べの祈り』は生々しい人間の煩悶を持って踊られることになった。ただし、痛みを保ちつつも感傷に陥ることなく。
舞台上で、ダンサー達は集団ヒステリー(精神科の意味で)のようにも見え、エロティックな痙攣は性的な行為に耽っているかのようにも見える。19世紀まで“ヒステリー”というのは信仰者が神との恍惚感を得た状態を指す場合もあった。全身全霊を傾け、神を感じるという意味において、それはほとんどエクスタシーといってもよかった。そうなると、プラテルの故郷、ゲントの聖バーフ大聖堂に北方ルネサンスの有名な祭壇画「聖なる子羊の礼拝(神秘の子羊)」が掲げられているのも偶然ではないだろう。異界を垣間見る患者や、神との恍惚感を得た信仰者の姿を通して、プラテルが見たビジョンとは。その答えは、この作品で得られるに違いない。


文:佐藤さくら

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