【演劇・ミュージカル ≪舞台のツボ≫】 (up 2005/01/25)
「歌舞伎座三月大歌舞伎
〈十八代目中村勘三郎襲名披露〉」
 ここ数年、松竹が連続して取り組んでいる大型名跡の襲名。中でも広く注目されているのが、十八代目中村勘三郎だ。記念の興行は歌舞伎座だけで三ヵ月連続で行なわれる。その後、大阪、名古屋など地方に場所を移し、12月まで公演が続くのだから、やはり破格といえるだろう。なぜ勘三郎がそれほどの人気なのか。それは若いときから、歌舞伎以外のさまざまなジャンルに出演し、それぞれで多くのファンを獲得してきたから。また近年では、コクーン歌舞伎や平成中村座など、歌舞伎そのものを現代にアプローチさせ、新しいファンを開拓しているから。世代、性別を問わず観る人の心を捕らえる稀代の歌舞伎役者・中村勘三郎。昨年11月の記者会見で勘三郎自身が「1日観てもらえば、いろんな種類の歌舞伎が楽しんでもらえると思う」と語っていた演目は、確かに見ごたえのあるラインナップ。新しい門出をぜひ生で観たい。

≪この舞台のツボ [1] これでバトンを受け取る≫

昼の部は4本の演目が用意されているが、勘三郎が出演するのは、3本目の「口上」と4本目の「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」。つまり「一條大蔵譚」が、勘三郎としての最初の歌舞伎となる。この作品の主人公・大蔵卿は、先代の十七代目勘三郎の当たり役で、生涯何度も演じたもの。さらにこの話は「時代物」といって、歌舞伎の演目の中でも格式を求められるもの。父からのバトンを、まずは歌舞伎の王道で受け継ぐ。そんな十八代目の決意が見えてくるようだ。

≪この舞台のツボ [2] 歌舞伎俳優の素顔がのぞく≫

襲名披露や子役の初舞台、追善公演に欠かせないのが「口上(こうじょう)」。三月大歌舞伎でも昼の部の三演目めに行なわれる。「口上」とは、通常の芝居とは別に、俳優が舞台上から観客に向かって挨拶すること。舞台上に敷かれた長い緋毛氈(ひもうせん・赤じゅうたんのようなもの)の上に本人と所縁ある俳優がズラリと並んで、順番にひと言ずつ述べていく。その内容に俳優の素顔が見えて、これが実におもしろい。和服の礼装である裃にかつら、言葉も時代劇口調ではあるものの、大まじめな本人をよそに、友人や先輩の俳優たちが「私が○○さんと最初に出会いましたのは…」など、普段は聞くことのできないエピソードを披露。エピソードをたくさん持っていそうな勘三郎のこと、「口上」に出演する俳優たちは、なにを話そうか悩んでいるかもしれない。

≪この舞台のツボ [3] さすがのチャレンジャー≫

襲名公演といえば、基本的に「十八番」「お家芸」と呼ばれる得意な演目を披露するのが一般的。ところが勘三郎は、得意な役がたくさんあるにも関わらず、最初の月から、ほぼ初役(初めて演じる役)という演目を持ってきた。これは、ただでさえ多忙な襲名公演の前に、新たな稽古を自分に課すということ。その演目は、夜の部の最初に上演される「近江源氏先陣館(おうみげんじせんじんかん)」、通称「盛綱陣屋(もりつなじんや)」だ。主君への忠義と肉親への愛情の狭間で、大きな決断を迫られる男の物語だ。勘九郎のさよなら公演に、渡辺えり子に脚本を依頼した新作を持ってきたように、区切りをつけるときも、前へ進むときも、つねに挑戦を忘れない。勘九郎のチャレンジ精神に拍手を送りたい。
「歌舞伎座三月大歌舞伎〈十八代目中村勘三郎襲名披露〉」 画像




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