【演劇・ミュージカル ≪舞台のツボ≫】 (up 2005/01/11)
「KITCHEN キッチン」
 すでに世界的な名声を手にしているにもかかわらず、次々と新たな挑戦を続け、演劇界全体を刺激している蜷川幸雄。70歳となる今年も精力的な活動が続く。早くも2005年第2弾となるのが「キッチン」。蜷川としては非常に珍しい翻訳物の現代戯曲だ。また、同じ職場(あるレストランの厨房)で働く若者の群像劇ということもあり、キャストもいつもと少し手ざわりが異なる。昨年、蜷川演出の「お気に召すまま」で大きく成長した成宮寛貴。「仮面ライダー龍騎」のあと、映画や舞台で経験を積んできた須賀貴匡。新劇界の老舗・文学座のホープ、長谷川博巳。タイプの違う同年代のイケメン俳優が集まった。若い彼らが、厳しい蜷川演出の洗礼を受け、さらに共演者と火花を散らしながら、どれだけの飛躍を見せてくれるか。面食いの趣味はなくても、実に楽しみだ。また、今作が久々の舞台出演となる杉田かおる、演出家としておなじみの鴻上尚史らが、飛び道具的になるのか本格的なのか、どんな演技を披露するのかも見逃せない。

≪この舞台のツボ [1] もしかしたら、弱点!?≫

走るほどに加速していくような、蜷川の精力的な活動。同じ戯曲を再演出する場合は、つねに新しいアプローチを求め、新作では、野田秀樹と同じ戯曲を同じ時期に演出したり、自分の世界観と真逆といわれる岩松了を指名したりと、いつも自分に高いハードルを課す。しかし、その蜷川が意外にもほとんど手をつけていないのが、翻訳物の現代戯曲。翻訳物ではシェイクスピアやギリシャ悲劇といった古典がほとんどなので、今回は相当の覚悟をもっての挑戦といえるだろう。肝心の内容は、戯曲に書かれている登場人物が40人以上もいる賑やかさで、おそろしいほど繁盛しているレストランの数時間を描いている。料理をつくる人、そのアシスタント、注文を受けてくる人、皿洗いの人……。さまざまな職種、さまざまな性格、さらに、さまざまな人種。忙しさの中で、若者たちがプライドや本音をぶつけ合う。この物語を蜷川は、劇場中央に舞台を設置して、客席を対面式にして見せるという。役者も演出家も追い込む観客の視線に、あえて左右からさらされる。蜷川の覚悟は深いと見た。

≪この舞台のツボ [2] 作者の横顔≫

シンプルで優しげなタイトル、「キッチン」。だがその中身は、人種差別問題など社会的な面を含んだ硬派な戯曲だ。劇作・脚本は、アーノルド・ウェスカーというイギリスの作家。1957年に書き上げ、1959年にロンドンで初演されると、またたく間に世界中に広がり、22ヵ国で上演されてきた。日本でも過去何度か、時にはミュージカルという形で上演されている。ウェスカーは1932年生まれで、若い頃はレストランで皿洗いの仕事に就いたり、またハンガリアン・レストランでパイをつくる仕事をしたこともあって、一時は本気でレストラン経営を考えたという経歴の持ち主。ちなみに「大麦入りのチキンスープ」という作品もある。その経験がこの作品で生かされていることは、いうまでもない。「キッチン」はかなり初期の戯曲で、その後も次々と作品を発表。そのうち何作かは日本でも上演され、本人も2度来日している。

≪この舞台のツボ [3] 若者だけではありません≫

前述のように、意外な顔合わせの若手イケメンが集まるこの舞台。でも、イケてる男優は若者だけにあらず。ベテラン勢からもイイ男が登場する。昨年、大竹しのぶと三田和代の女優対決が話題になった「喪服の似合うエレクトラ」で、大竹の父にして三田の夫であるエズラを演じ、光る渋みと抑えた色気を舞台中に撒き散らした津嘉山正種(つがやま・まさね)。大ベテラン組としては、「白い巨塔」の大河内教授役で、60歳を過ぎたブレイクを果たした品川徹が作品を引き締める。忘れてはならないのは高橋洋。蜷川作品常連組の30代では、繊細なルックスが光る。この作品で、若手の兄貴となるか?




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