【演劇・ミュージカル ≪舞台のツボ≫】 (up 2004/12/21)
シス・カンパニー&大人計画プロデュース「蛇よ!」
 バラエティで見せる天然気味のふわふわしたキャラクターとは裏腹に、迫真の演技力で舞台、映画、ドラマで活躍する女優・大竹しのぶ。劇団大人計画の主宰、作・演出、役者であり、04年は初めての監督した長編映画「恋の門」が大ヒットした松尾スズキ。一見、つながりのなさそうなふたりが、なんと演劇ユニットを組むことになった。その名も蛇※蛇。作・演出は松尾が担当するが、内容は芝居ではなく“コント、あるいはコントのようなもの”にするという。出演者がふたり、しかも男女となればラブストーリーが常道だが、そこであえて笑いに挑むというのだから、むしろ興味深い。松尾の笑いは通常かなりブラックだが、大女優・大竹に、どんな笑いを演じさせるのか? 大人の遊び心による舞台という気もするが、意外と本気になって凝りそうな予感もする。その答えを知るためには、2匹の蛇にかまれ、その毒にシビレるしかない。

≪この舞台のツボ [1] 実は共演済みでした≫

ずっと前から大竹が大人計画のファンで、中村勘九郎にも観ることを勧め、それがシアターコクーンでの「ニンゲン御破算」(03年)につながったという経緯があるほど、大竹と松尾の面識は古い。共演もすでに実現していて、グループ魂(大人計画のメンバーである宮藤官九郎、阿部サダヲ、村杉蝉之介による音楽コントグループ)のライブの1コーナーを松尾が受け持った時、スペシャルゲストで大竹が出演したことがある。また、松尾が監督、出演した映画「恋の門」に大竹が出演。ここでは、酒井若菜演じるコスプレ好きのOLの母親という役で、コミケ会場でハッチャけたコスプレ姿を披露し、短い登場シーンではあったが、強烈な印象を残している。松尾の頭の中では以前から、コメディエンヌとしての大竹がイキイキと活動していて、この蛇※蛇につながったのかもしれない。

≪この舞台のツボ [2] 松尾と女優≫

大人計画で、阿部サダヲ、宮藤官九郎、荒川良々、近藤公園ら数々の人気俳優を育ててきた松尾だが、外部女優の使い方のうまさにも定評がある。05年、再演が控えるミュージカル「キレイ」(00年)での奥菜恵、「業音」(02年)での荻野目慶子、「ドライブイン・カリフォルニア」(04年・再演版)の小池栄子など、松尾演出の舞台で、それまでにない一面を見せ、新たな魅力を開花させた女優は多い。その松尾が、初めて、ひとりの女優とがっぷり四つに組む。そこで生まれる化学反応が、笑い目的の舞台とはいえ、あっさり軽いものであるわけがない。これまでさまざまな役を経験しているベテラン大竹ではあるが、もしかしたら「蛇よ!」で、さらなる一面を見せてくれるかも。

≪この舞台のツボ [3] いつもより、両極端?≫

硬軟どちらの作品も自在に演じる大竹。その振り幅は大きく、並みの女優なら太刀打ちできない重厚な作品も、先に書いたコスプレママのようなイロモノ・キャラクターも、同じように観客を納得させてしまう。とはいえ、05年はこの蛇※蛇のあと5月に、蜷川幸雄演出の「王女メディア」に出演するのだから、例年以上に両極端となりそう。「王女メディア」は最重量級のギリシャ悲劇。1年の仕事の欄にこれだけ極端なふたつの舞台が並ぶ役者も滅多にいない。では「蛇よ!」が悲劇の前の軽い息抜きかといえば、当然、さにあらず。以前から松尾をリスペクトしている大竹だから、その才能をひとり占めする贅沢さは十二分に承知しているはず。ましてや新ユニットの初公演、そこに臨む緊張感はかなりのものだろう。むしろ自分を追い込もうとする女優魂のあらわれが、蛇※蛇かもしれない。
シス・カンパニー&大人計画プロデュース「蛇よ!」 写真




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