【演劇・ミュージカル ≪舞台のツボ≫】

  (up 2004/09/28

「走れメルス〜少女の唇からはダイナマイト!〜」

 待望のNODA・MAP本公演は、劇団夢の遊眠社時代の傑作「走れメルス〜少女の唇からはダイナマイト!〜」。野田秀樹がこの作品を書いたのは21歳のときで、夢の遊眠社の第2回公演だった。ストーリーは、鏡をはさんでネガとポジのように存在するふたつの世界を舞台に進む。結婚披露宴のゲストに呼ばれた人気絶頂のアイドルのメルスが、花嫁の零子に連れ去られる。しかし世間ではメルスが花嫁を誘拐したとして刑事が捜索を開始する。一方、下着を盗もうとしてして出会った美少女・芙蓉に恋をした、冴えない若者・久留米のスルメ。気の強い芙蓉に振り回されながらも、彼女に会う唯一の方法である下着泥棒を続ける。しかし次第に、華やかなメルス達の世界と、小さな夢を支えに生きるスルメや芙蓉の世界が接近して……。荒削りなところはあるものの、全体のスピード感、最初はバラバラだったいくつものイメージがひとつの大きな物語になるスケール感はさすが。28年前の作品とはいえ、野田の才気を十二分に感じさせる。キャストには、NODA・MAP初参加の中村勘太郎、河原雅彦、常連組の深津絵里、古田新太、「赤鬼」に続く野田作品参加の小西真奈美ら。NODA・MAP10周年公演にふさわしい豪華な布陣が揃った。

≪この舞台のツボ [1] 「メルス」を知って、野田を知れ≫

「走れメルス」は、野田作品のなかで最も上演回数が多い。初演は76年10月だが、すぐ翌月改訂版として再演。以来、78年、81年、83年、86年と、これまでに6回上演されている。当然、野田自身が気に入っていたこともその理由だろうが、観客からの人気も高く、86年は遊眠社の解散公演で、上演を希望する作品のファン投票を行なって上位2作を連続上演したもの。その人気の理由を野田は「真逆のふたつの世界があって、構造としてわかりやすいからじゃないかな」と分析しているが、遊眠社を旗揚げして広まった「東大で演劇をやってるヤツに、すごいのがいるらしい」という噂が、これで名刺代わりのように事実として外に伝わっていったといえる。野田作品の特徴である、マシンガンのように連射される言葉遊び、スピーディでハードな役者の動き、物語のダイナミックさと、緩急鮮やかな構成はすでに確立されており、また、この作品でも観られる野田の女装は、遊眠社初期の名物でもあった。最近は、同じ女性役でも老婆が多いが、「メルス」では知的なマダム役で登場するので、ここに注目するのも一興だ。

≪この舞台のツボ [2] 本公演と番外公演の違い≫

この「メルス」は本公演だが、NODA・MAPには番外公演と呼ばれる公演もある。NODA・MAPでいう番外公演とは、少人数の出演者と小空間を意識した作品で、これまでに「農業少女」「Right Eye」などがある。10月2日からシアターコクーンで上演される「赤鬼」は、もともとNODA・MAP番外公演として生まれたものが、タイ人俳優、イギリス人俳優とのワークショップ、上演を経て、コクーンプロデュース公演となったもの。日本人演出家としては珍しく、大きな劇場の使い方がうまいといわれる野田。実際、タテ、ヨコ、奥行きのすべてに広がりを持たせ、空間を持て余すことのない彼だが、だからこそ時に小さな場所にこだわり、空間の使い方に磨きをかけているのだろう。「メルス」はかつて、紀伊国屋ホールと本多劇場で上演されているが、今回の劇場はコクーン。使い慣れたこの場所をどう使うのか。「以前はモノを出し過ぎた」と話していた野田だから、まったく新しいアプローチで立体的な作品の世界をつくりあげてくれることだろう。

≪この舞台のツボ [3] 小劇場の実力派≫

[2]の内容とも関連するが、たくさんいる今回のキャスト、すみずみまで顔ぶれまでにぎやかだ。以前から、小劇場の役者に対して目利きのNODA・MAPだが、この「メルス」は特に層が厚い。夏には「ミッドサマー・キャロル」で涙を誘ったサモ・アリナンズの小松和重。ナイロン100℃の看板女優のひとりで、今年は外部公演に専念している峯村リエ。元・惑星ピスタチオの腹筋善之介。主宰するカムカム・ミニキーナの公演が終わったらすぐこの公演という松村武。ジョビジョバの六角慎司。演劇弁当猫ニャーが解散したばかりの池谷のぶえ。これまで培ってきた“演劇的な育ち”を個性として感じさせながら、柔軟な反射神経で作品にやわらかな奥行きを持たせる面々で、この「メルス」が、ある意味では小劇場の絶好のショーケースともなりそうだ。

「走れメルス〜少女の唇からはダイナマイト!〜」 写真


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