【演劇・ミュージカル ≪舞台のツボ≫】

  (up 2004/09/14

「ピローマン」

「スノーマン」の親戚のような可愛らしいタイトル。しかしこの舞台の内容は、まるで反対。確かにメルヘンを扱ってはいるのだが、登場するのはいずれも少し、あるいはかなり変わった人ばかり。彼らの行動は残酷でシニカルで暴力的で、そしてなぜか、笑える。世界中が注目する若き才能、マーティン・マクドナーの新作戯曲を、日本の演劇界が未来を託す若きホープ、長塚圭史が演出する。出演は、高橋克実、山崎一、中山祐一朗、近藤芳正という魅力的な男優4人。いずれも舞台出身、経験豊富、軽さと深みの両方を同時に表現できる実力の持ち主だ。風変わりな物語ばかりを書くメルヘン作家の身辺で、彼が知らないうち、その作品とよく似た殺人事件が起きる。事情がわからないまま、胡散くさいふたりの刑事の取り調べを受ける作家。刑事は、知恵遅れの作家の兄を拷問にかけ、自白を強要する。次第に明らかになる、作家の過去、兄の行動、刑事の素顔。そして事態は思わぬ展開に──。驚き、笑い、やがて戦慄する、この秋の話題作にして問題作だ

≪この舞台のツボ [1] 謎の戯曲家、マーティン・マクドナー≫

この作品の脚本を書いたマーティン・マグトナーは、71年生まれ、ロンドン出身のアイルランド人。さまざまなアルバイトをしながら25歳のときに発表した初戯曲「ビューティ・クイーン・オブ・リナーン」が、いきなり98年のトニー賞4部門をはじめとする多数の賞を受賞。シンデレラ・ボーイとして一躍、注目を集めた。その後も、処女作と同じアイルランドの架空の町、リーナンを舞台にした「コネマラの頭蓋骨」「孤独な西部」、また、「夢の島イニシュマーン」「ビリーとヘレン」と、次々と作品を発表。いずれも、徹底的な暴力描写と乾いたユーモアが色濃く、しかし同時に、寓話性と普遍性をも感じさせる文学性の高い作品で、発表のたびにその名を揺るぎないものにしていった。いまや、世界中で彼の戯曲は人気を集め、日本でも今年、7月に「ビ
リーとヘレン」、11月に「ピローマン」「ビューティ・クイーン・オブ・リナーン」と、3作品が上演される勢いである。しかしマクドナーは大のマスコミ嫌いで、戯曲以外、その人となりを知る術はほとんどない。日本で作品が上演されるに当たり、ある主催者が来日を企画したが、招へいされると取材を受けなければならないため、マクドナーは自費で飛行機のチケットを買い、日本に来たとか来るといった話もあるほどだ。

≪この舞台のツボ [2] 長塚vsマクドナー、第2回戦≫

塚圭史は、昨年、今回と同じパルコ・プロデュースで、マクドナーの「ウィー・トーマス」を演出。75年生まれの彼は、そのとき、パルコ劇場史上最も若い演出家としても話題になったが、演出の手腕もまたそれ以上の話題となった。もともと、自身が主宰する劇団阿佐ヶ谷スパイダースで長塚が書く戯曲も、暴力的なシーンとユーモアの共存は大きな特徴であり、マクドナーの作品世界と近いものがあった。しかし「ウィー・トーマス」でのエッジの効いた長塚の演出は、初めて翻訳劇挑戦でありながら、マクドナー戯曲の残酷さ、ばかばかしさを、美しさにまで高めた。戯曲のインパクトが大きいだけに、演出が難しいマクドナー作品だが、長塚との相性はかなりいいといえる。その実績を超えるべく用意されたのが、マクドナーの最新作「ピローマン」だ。さらに残酷で、さらにユーモアたっぷりのこの作品に、長塚はどう対峙するのか。熱い注目が集まっている。

≪この舞台のツボ [3] 長塚と4人の男優たち≫

今回キャスティングされた4人の出演者に不満のある演劇ファンは少ないだろう。暗いメルヘン作家に高橋克実。抜けているようで残酷なことも平然とできる刑事に、近藤芳正と中山祐一朗。作家の兄で知恵遅れの中年男に山崎一。役のイメージにぴったりの、いずれ劣らぬ個性派の演技巧者が揃った。この4人と長塚の相性も、かなり期待できる。中山は長塚が主宰する阿佐ヶ谷スパイダースのメンバーであり、互いに気心知れた仲。また、山崎は長塚と同じ事務所で、かつて自分のプロデュース公演で長塚に作・演出を依頼したこともある。高橋と近藤はそれぞれ初めての仕事となるが、高橋については、長塚はTVで見た高橋にひと目で魅かれ、この仕事の前から交流もあったという。近藤に対しても数々の舞台で、その実力には全幅の信頼を寄せているそう。ちなみに、近藤は7月の「ビリーとヘレン」にも出演しており、今年2本目のマクドナー作品への出演となる。

「ピローマン」 写真
「ピローマン」 写真


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