【演劇・ミュージカル ≪舞台のツボ≫】

  (up 2004/08/03

「ママがわたしに言ったこと」

思わずうならずにいられない、すごい顔合わせだ。木内みどり、渡辺えり子、大竹しのぶ、富田靖子。貪欲さと謙虚さで、翻訳劇も古典もひとり芝居も大劇場も、つねに果敢に挑戦してきた実力派女優4人。この4人が“母と娘”をテーマにした翻訳劇に挑む。それも、青山円形劇場という濃密な空間で。娘を意のままにしようとする母、母の言う通りの道は選ばない娘。対立を繰り返しても離れられない密接な関係を描いた「ママがわたしに言ったこと」は、母と娘4代の、反発と理解の物語だ。この舞台を演出するのは、今、注目の演出家・鈴木勝秀。鈴木は「日本を代表する女優さん4人と一度に仕事ができるなんて幸せ」と笑顔を見せながらも、作品については背筋を正してこう話す。「世界中でつねに戦争が起きていますが、僕は“母親的”なものが世の中に足りないのでは、と考えているんです。母親って、自分とは違う人間を生み、育て、無条件に愛す。理屈や勝ち負けではなく、他者をまず全面的に受け入れる“母親的”な視線を意識しながら、この作品を演出したいと思っています」

≪この舞台のツボ [1] 一流、堂々と、一堂に≫

この作品の紹介記事に使われる形容詞は、容易に想像がつく。「女の熱い戦い」「本気の火花が散る」「豪華な女優バトル」などなど、きっとどれも興奮気味に、出演女優の組み合わせを語るだろう。それは当然で、すごい実力とキャリアの持ち主が4人集まるのだ。つい、少女漫画チックな“女優vs女優”の画(え)を思い浮かべてしまう気持ちはよくわかる。しかしもちろんそんな激闘は当然起こらず、私達は客席から、真摯に脚本と取り組んだ4人の女優の姿を目撃するだろう。なぜならそれが一流ということで、彼女たちが一流であることは、すでに実証済みだから。ちなみに出演者の最近の舞台の動向を書いておく。近年は仕事をセーブしていた木内みどりは今年、11年ぶりに『TRUE WEST』で舞台に立った。渡辺えり子は、劇団3○○解散後、2001年に演劇集団・宇宙堂を旗揚げ、作・演出を続けている。大竹しのぶは、多くの演劇賞を受賞したこまつ座の『太鼓たたいて』の再演でさらなる好評を集めた。富田靖子は5月に明治座の『燃えよ剣』に出演、芯のある色気を見せた。

≪この舞台のツボ [2] いま最も忙しい演出家のこと≫

『BENT』『ダム・ウェイター』『偶然の男』など、刺激的な翻訳モノの脚本を、今年連続して手がけている演出家。それがスズカツこと鈴木勝秀だ。大学時代、ザズゥシアターという劇団を旗揚げし、松重豊、椎名桔平ら男優だけで活動していたが、劇団を休止し、しばらく『世にも奇妙な物語』などTVの脚本で活躍。昨年あたりから再び演劇シーンに戻り、フリーの演出家として一躍、メインストリートに躍り出た。この『ママがわたしに〜』のあともスケジュールはぎっしり決まっており、今年手がける公演が7本とも8本とも言われている。その演出の特徴は、スタイリッシュ。また、会場となる青山円形劇場は、鈴木がザズゥの頃からよく使用し「円形といえばスズカツ」というプロデューサーや演劇ファンもいるほど。客席の間を通り、何方向からも役者が出入りできる円形を熟知する鈴木が、女性4人芝居でどんな使い方を仕掛けてくるのか、劇場の使い方にも注目したい。

≪この舞台のツボ [3] 女芝居流行の兆し?≫

なぜか今年の後半は女優芝居が目に付く。この作品が9月に上演されると、11月には映画がヒットした「8人の女たち」が、加藤治子、木の実ナナ、山本陽子、岡本麗、安寿ミラ、毬谷友子、佐藤江梨子、ソニンという世代の幅が広いキャスティングで上演される。また、男優も出演してはいたものの、女性同士の関係が全面に描かれたという点では、浅丘ルリ子と木の実ナナが7月に演じた「伝説の女優」、また若尾文子、寿ひずる、浅野温子の「ウエスト サイド ワルツ」が9月に上演される。この現象の正確な理由はわからないが、女同士の本音トークのほうが男同士のそれより、ハジけていたり笑えたりするのだろうか。それとも劇場の客席はほとんど女性という、日本の演劇マーケティングから導き出された結果なのか。はたまた、男性に元気やドラマがないという証拠なのだろうか。何となく気になる現象ではある。

「ママがわたしに言ったこと」 写真


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