【演劇・ミュージカル ≪舞台のツボ≫】

  (up 2004/6/11

「五代目中村勘九郎 
名跡最後の錦秋特別公演 藤娘/供奴/連獅子」
コクーン歌舞伎や平成中村座、歌舞伎座での野田秀樹作品の上演など、歌舞伎の魅力を柔軟かつダイナミックな形で広めている中村勘九郎。その動向は歌舞伎ファンならずとも注目するところだが、来年は十八代目中村勘三郎襲名という大きな行事を控えている。4才で勘九郎を名乗ってから45年、おそらくは本名よりもなじんでいるであろう「中村勘九郎」も、残すところ数ヵ月。別れゆく現在の名跡への名残を込めて、勘九郎が人気の舞踊作品を踊る。7月には初めての平成中村座海外公演をニューヨークで 行うなど、相変わらずエネルギッシュで、大きな視野を持って舞台に立っている彼だが、その肝にあるのは間違いなく古典の基本。この公演では、得意の踊りで、歌舞伎本来の重厚感、躍動感を存分に堪能させてくれるはず。5月に北海道からスタートし、日本全国を回ってきた「勘九郎」へのさよなら公演。その最後を歌舞伎座でたっぷり堪能したい。

≪この舞台のツボ [1] “襲名”って、なに?≫

最近よく耳にする、歌舞伎俳優の襲名という言葉。まさにいま歌舞伎座で、2ヵ月連続の「十一代目市川海老蔵襲名公演」が行なわれているが、そもそも 襲名とはなんだろう?大騒ぎすることなのだろうか? 襲名とは、親、あるいは縁ある先達の名前を継ぐこと。ご存知の通り歌舞伎は 伝統芸能であり、親から息子に芸を伝える世襲制度をベースにしているが、途中で途絶えてしまう名前もあるし、新しくつくられる名前もある。そんななかで名前が無事に引き継がれるのはおめでたいこと。また、先達の名前を継ぐことで、先代に恥ずかしくない俳優になるべく、それまで以上に精進するという大きな責任が生まれる。その精神的作用は非常に大きく、襲名をきっかけに演技に深みが増したり、役の幅が広がることも珍しくないのだ。とはいえ、本人にとっては襲名前の名前に愛着が深いことが多く、みな、別れが惜しいという。勘九郎もまた、その気持ちが深いに違いない。

≪この舞台のツボ [2] 踊り、開眼!?≫

演目の柱となるのは「藤娘/供奴/連獅子」という舞踊の3作品。この3作はいずれも人気が高く、また、中村屋が得意としているもの。それぞれを簡単に解説しよう。 「藤娘=満開の藤の花から抜け出してきたような藤の花の精が、あでやかに愛らしく踊り、若い娘ならではのみずみずしい色っぽさを表現。勘九郎の次男で、宮藤官九郎初の監督作品「真夜中の弥次さん喜多さん」に出演している中村 七之助が踊ると予想される」「供奴=にぎやかな夜の吉原で、お供してきた主人を見失ってしまった奴が、主人の姿格好を真似ながら、廓の店先を訪ねて歩く。コミカルで威勢がいいが、実は足拍子が相当に難しい。勘九郎の義弟にあたる橋之助が踊ると予想される」「連獅子=中村屋といえばこれ、と楽しみにしている人も多い踊り。前半は小型の手獅子を使って、親獅子が子獅子を鍛える様子を見せ、後半では、たてがみを模した長い毛を振って、親獅子と成長した子獅子が息の合った勇壮な踊りを見せる」

≪この舞台のツボ [3] 先代・勘三郎のこと≫

揺るぎない芸の高みに到達し、同時に、観る人の心にスーッと染み入るような人間くささが持ち味だった先代の中村勘三郎。俳優仲間だけでなく、多くのスタッフからも慕われるあたたかな人柄だった。しかし歌舞伎というジャンルを超えた活動にも積極的に関わった。6月に本多劇場で上演されていた「狐狸狐狸ばなし」は、もともと勘三郎、森繁久弥、三木のり平、山田五十鈴に当て書きされた戯曲だし、自ら声をかけて女優を入れた歌舞伎を上演するという挑戦も。コクーン歌舞伎や平成中村座における勘九郎の冒険心と行動力は父親譲りらしい。いまの勘九郎の活躍は、天国の観三郎を喜ばせ、また、悔しがらせているだろう。



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