【演劇・ミュージカル ≪舞台のツボ≫】

  (up 2004/5/28

「I LOVE YOU 愛の果ては?」
オフ・ブロードウェイで96年からロングラン中の人気ミュージカルを、日本人キャストで。出演は、日本ミュージカル界の売れっ子4人。サッカー解説でもおなじみの川平慈英、元宝塚星組のトップスター・絵麻緒ゆう、劇団四季でキャリアを積んだあと、「レ・ミゼラブル」や「屋根の上のヴァイオリン弾き」などで活躍する堀内啓子、甘いマスクと抜群の歌唱力で人気の戸井勝海。役者が男女ふたりずつ、楽器もピアノとヴァイオリンのみという、こじんまりとした編成だが、繰り広げられる物語は“愛の果て”というより“愛のすべて”と言いたくなるような、恋愛にまつわる多彩なシチュエーション。スケールの大きい物語を朗々と歌い上げるのではなく、会話の続きのような歌とシャープな踊り、気の利いたせりふが小気味よく展開するので、観ながら何度もうなずき、笑い、胸の奥が暖かくなるはず。昨年9月、日本初演の幕が明けてすぐ再演の熱いリクエストが集まったこの舞台、ミュージカルが苦手な大人にこそ観てほしい。

≪この舞台のツボ [1] 恋の矛盾を突付きます≫

この作品の原題は「I LOVE YOU,YOU'RE PERFECT,NOW CHANGE」。つまり「愛してる、君って完璧だよ、でも気が変わっちゃった」という、ユーモラスながら、ドキッとさせられるもの。愛しているのに、相手に不満はないのに、なぜ急に心変わり? タイトルから感じる矛盾、身勝手さ、「でも、そういうことって、ある」という感覚を、この作品はさまざまなエピソードで提示する。誰かを愛することは素晴らしい、愛し合えたらなおさら。でもそれは同時に、無数の悩みや駆け引きや衝突を引き受けることでもある。たとえば“彼もしくは彼女を愛していても、その家族は?”そんな恋愛のリアルを、ひとつの恋が生まれ、いくつかのトラブルを乗り越えながら、結婚にたどり着き、年を取り……という一連の流れで見せていく。しかも何組もの不特定カップルを通して。この“不特定”というのがミソで、さまざまな組み合わせが登場することで、より問題が身近になる。

≪この舞台のツボ [2] 2×2=18になる!?≫

キャストは、男女それぞれ2名の計4人。ところがこの4人がさまざまな組み
合わせで登場。ファーストデートに悩む若葉マークのカップル。自分に自信が持てない女の子と、彼女を励ますピザ宅配員。結婚式当日の新郎新婦。そこに立ち会う神父。女性が主導権を握ることが当たり前になった夫婦。そしてその友達や家族など、役を変え、相手を変えて、演じるシーン数はなんと18にも。第1部は、男女が出会って恋人となり、結婚するまで。第2部は結婚後。恋愛未満、恋愛中、恋愛後の人々と、彼らの周囲の人々が次から次へと登場する。その変貌ぶりは、この作品の大きな見どころ。さらに、そのひとつひとつが、心憎いほど何気ないシチュエーションと、心に響くせりふ、派手ではないが高い技術が求められる歌と踊りで構成されている。今も8年目のロングランを続けていることが納得のアイデアとテクニックが満載だ。

≪この舞台のツボ [3] ミュージカル巧者のカルテット≫

たった4人の出演者で、これだけ凝った内容。だとすれば、ひとりひとりの演技力、歌唱力、ダンス、瞬発力が厳しく問われるのは当然のこと。その点で、この日本版のキャスティングは間違いなく合格点だろう。川平が、タップをはじめとする踊りが得意で、パワフルな歌唱力を持つことは、演劇ファンにはよく知られていること。もうひとりの男優・戸井も、人気のミュージカル男優4人(戸井の他、岡幸二郎、石井一孝、吉野圭吾)によるミュージカルナンバーのオムニバスCDを出している実力派。絵麻緒ゆうは、元宝塚雪組のトップスターだから、実力と華やかさには間違いない。堀内敬子は、劇団四季で9年間キャリアを積んだあとフリーとなり、注目の舞台で大きな役を次々と射止めている。そしてこの面々を仕切るのは、山田和也。三谷幸喜作品や、最近では「浪人街」、ミュージカルでは「サウンド・オプ・ミュージック」「ジキルとハイド」など、大作、翻訳もの、コメディが得意な演出家で、この作品にはぴったりなのだ。


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