【演劇・ミュージカル ≪舞台のツボ≫】

  (up 2004/5/14

「真昼のビッチ」
脚本家、演出家、さらに役者としても、舞台、映像を超えて活躍し、そのいずれもが注目と評価を集める若手クリエーター、長塚圭史。彼が高橋由美子を主演に「以前からやりたいと思っていた」という“裏街もの”を手がける。とある繁華街で、昼は表通りのファーストフード店の店員、夜は裏道に立って体を売る女性を主人公に、彼女の夜の客、昼間の恋人、売春の先輩、その街を乗っ取ろうとするコンツェルン、さらに頭に障害を持つ彼女の妹らが絡み合う物語……と聞くと2時間ドラマのように俗っぽいが、暴力シーンや意外な人間の心理を鮮烈に描いて、予定調和など軽く吹き飛ばすスピード感とうねりを生み出す長塚のこと。一筋縄ではいなかない作品になるのは間違いない。高橋をはじめ、女性陣が多く活躍しそうなのも期待大。複数の女性がかっこよく活躍する舞台は、洋の東西を問わず、実はめったにないのだ。

≪この舞台のツボ [1] 長塚圭史を押さえろ!≫

小劇場の枠を超え、パルコ劇場では最年少演出家の記録を更新、ただいま上映中の主演映画「リアリズムの宿」(原作:つげ義春、監督:山下敦弘)は前評判も上々と、メジャーシーンでもサブカルチャーシーンでも高い支持を受ける長塚圭史。その縦横無尽の活躍と人気の幅は今後ますます広がるはず。彼が演劇を始めたのは大学入学から間もない94年。
「劇団笑うバラ」、「カーズ」を経て、96年暮れ、プロデュースユニットとして「阿佐ヶ谷スパイダース」をスタートさせ、のちに劇団化した。名前、風貌からもわかるように、俳優・長塚京三氏は実父。京三氏は息子の才能を評価しており、自身のひとり芝居と主演舞台、2度に渡って作・演出を任せている。その評価は冷静で、シアターアプルという広い劇場を全16ステージ、さらに大阪公演も行なう「真昼のビッチ」もまた、長塚の作・演出家としての力量を全面的に信頼した舞台なのだ。

≪この舞台のツボ [2] まず高橋由美子ありき≫

「真昼のビッチ」は、ストーリー先行ではなくキャストありきで始まった。
それも、あらかじめ決められたキャスティングではなく、作家・長塚が女優・高橋と出会い、インスピレーションを得て立ち上がった企画なのだ。
ある舞台の打ち上げ会場で、日本酒をガツンとあおる高橋をたまたま目にした長塚が「かっこいい!」と感動し、一緒に作品をつくる話となり、今回のストーリーが生まれたという。楚々としたイメージで、実際とても華奢な高橋だが、実は、体力的にハードなことで知られる劇団☆新感線で主役を張るほどのタフ女優。最新作、野田秀樹演出の「透明人間の蒸気」でも、巨大な新国立劇場にりんりんと響きわたる声量で多くの観客を圧倒した。TVドラマ「ショムニ」でも実証済みのコメディセンスもあって、長塚が彼女に当て書きする“昼=淑女、夜=娼婦”という女をどう演じるか、実に興味深い。

≪この舞台のツボ [3] スパイダースmeets新感線≫

高橋を支える面々もまた、長塚の希望がかなり色濃く反映されていると思われる。主人公の味方になる裏街の女ボスには、スパイダースの公演にメンバーがよく客演する劇団猫のホテルの主宰・千葉雅子。千葉は2度目の長塚作品出演となる。また、主人公の売春の客でありながら本気で恋に落ちるサラリーマンに、劇団☆新感線の人気者、轟天でおなじみの橋本じゅんが。このふたりは長塚がかねてからの大ファンの役者だ。他にも、現団員の高田聖子、元団員の渡辺いっけい、何度も出演経験のある馬渕英里何という新感線組と、中山祐一朗、伊達暁とスパイダース・メンバーが出演。いわばスパイダースと新感線のリミックスといった顔ぶれが中心だ。それぞれに世界観のはっきりした劇団のメンバーがひとつの作品をつくると、思わぬ化学反応でピタリと結びつくか、分離したままかのどちらか。この舞台では、結果はどちらに出るだろう。


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