【演劇・ミュージカル ≪舞台のツボ≫】

  (up 2004/3/26

「ダム・ウェイター」

昨年、シチュエーションコメディの傑作「おかしな2人」を、陣内孝則×段田安則の男性バージョンと、小泉今日子×小林聡美の女性バージョンで上演したSISカンパニーが、またもや心憎い企画を打ち出した。今年は同じ脚本を2組の男優が交互に演じるのだが、その顔合わせがいい。Aバージョンは、堤真一×村上淳という二枚目若手組。そしてBバージョンは、浅野和之×高橋克実という渋い中年組。昨年同様、どちらもとびきりおもしろくなりそうで、単純に比較できるキャスティングではないから困ってしまう。彼らが演じるのは、ハロルド・ピンター作の「ダム・ウェイター」。にぎやかだった「おかしな〜」と打って変わって、男ふたりの不思議な会話劇だ。ボスの命令を待つ殺し屋ふたりが、いつもと同じようにとりとめのない話を交わしているはずが、やがて意外な事態が展開して……。緊張感とユーモアの脚本に、4人の男優はどう挑む?

≪この舞台のツボ [1] 多才な原作者、ピンター≫

脚本を書いたピンターは、現代のイギリス演劇界を代表する劇作家。登場人物の関係性が曖昧で、どこか現実離れしているのに、張り詰めた空気感が漂うという、独特の室内劇を得意としている。劇作家としてのデビューは27歳で、現在までコンスタントに多くの戯曲を残しているが、哲学的とも不可思議ともユーモラスとも取れる作風は、世界的に評価、人気とも高い。その活動は演劇に留まらず、映画の脚本も多数手がけ、アカデミー賞の脚本賞も2度受賞しているほど。さらにユニークなのが、戯曲を書く前は俳優として舞台に立っており、近年では俳優として映画にも出演している。

≪この舞台のツボ [2] 演出家もバトルする!?≫

「おかしな2人」は、2バージョンどちらも、演出は鈴木裕美が手がけた。しかし今回は、演出家も別々。堤×ムラジュンは鈴木裕美が、浅野×高橋には鈴木勝秀が当たることに。同じセットを使った連続上演だから、役者も比較されるだろうが、演出家も「あっちの見せ方が好き」「こっちの解釈が納得がいく」と、すぐに比較の俎上(そじょう)に上げられるはず。
脚本のツボを外さない裕美と、男をかっこよく見せる勝秀、ほぼ同年代のふたりは、それぞれにどんな舞台をつくり上げてくれるのか。もしかしたらこれは、役者より演出家のほうがプレッシャーを感じる企画かもしれない。

≪この舞台のツボ [3] ダム・ウェイターってなんだろう?≫

タイトルの「ダム・ウェイター」は、直訳すると「料理昇降機」。レストランなどで、厨房と客席のフロアが違う場合、できた料理や空いた食器を運搬する小さなエレベーターを見たことがあるだろう。あの超小型エレベーターを、イギリスでは「ダム・ウェイター」と呼ぶ。日本ではいまだになじみのないこの言葉、脚本が最初に紹介された当時はさらになじみが薄く、'64年の日本初上演時には「殺し屋」というタイトルが付けられていた。



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