【洋楽】   (up 2004/7/30)
ロン・セクスミス
 90年代半ばにデビューして以来、その後のシンガー・ソングライターの流れを語る上で欠くことのできない重要アーティストのひとり、ロン・セクスミスの来日が決定。4月に発表した通算5枚目にあたる最新アルバム『リトリーヴァー』を携え、アコースティックな要素を重視し、控え目な中に情感がこもった独特の存在感を堪能したい。

 ロン・セクスミスは90年代半ばにカナダから登場。ミッチェル・フルームのプロデュースによりリリースした3枚のアルバムで、現在活躍しているシンガー・ソングライターの中でも、基本的にはティム・ハーディンやコリン・ブランストーンといった60年代のシンガー・ソングライターの影響を受けた陰影のある作風で独自のポジションを確立したアーティストだ。

  その後はマーティン・テレフェをプロデューサーに起用し、前作『コブルストーン・ランウェイ』では、ドラム・ループやシンセ・サウンドを導入。さらに今年にリリースしたロンドン・レコーディングの最新アルバム『リトリーヴァー』では、ブリティッシュ・フォーク寄りのテイストを濃厚にするのと同時にリズムを強調したアプローチを行うなど、音作りについても確実に新たな領域への意欲を見せてきている。とはいうものの彼の作風は、決してサウンドで派手な衝撃を与えるタイプではない。作品によって色々な新機軸はあるが、常に基本の部分にあるのはアコースティック楽器の響きを大切にしたナチュラルな雰囲気であり、むしろエキセントリックなインパクトを周到に排除しているかのような誠実な姿勢こそが最大のポイントといえるだろう。

  このようにして紡ぎ出された彼のメロディと歌詞は、流行に惑わされていないがゆえに、どんな時代でも変わらずに聴くことができる普遍的なポップ・センスに満ちている。押しではなく引きの魅力で、リスナーを惹きつけてくれるのだ。その気取りや背伸びの無さは、親しい友人との一対一の会話のような穏やかさに似た親密なムードを醸し出す。そんな控え目なやり方で音楽家としての情熱を伝えてくれる彼のステージを、自分だけの特別な楽しみとして待っている人も、実は数多く存在しているはずだ。
ロン・セクスミス 写真



>> バックナンバーへ
Copyright (C) 2007 PIA Corporation. All Rights Reserved.