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「ビギナーが楽しめるということを追求し、それに特化してプロデュースしてます」
錦織健がプロデュースするオペラを前に思いを語る

テノール・錦織健


Concert

錦織健プロデュース・オペラ Vol.5
ロッシーニ:歌劇『セビリアの理髪師』
〈第35回 名古屋国際音楽祭〉

▼4月7日(土)14:00
愛知県芸術劇場 大ホール
S席-14000円 A席-12000円 B席-9000円 C席-7000円 D席-5000円
演出:十川稔
指揮:現田茂夫
出演:堀内康雄(フィガロ:バリトン)/森麻季(ロジーナ:ソプラノ)/錦織健(アルマヴィーヴァ伯爵:テノール)/志村文彦(バルトロ:バス)/池田直樹(ドン・バジリオ:バスバリトン)
演奏:服部容子(チェンバロ)/ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
合唱:ラガッツィ
CBC事業部[TEL]052(241)8118
Pコード:157-499

チケット情報はコチラ

錦織健。日本を代表するテノールであり、CMへの出演などでお茶の間にも知れ渡っている数少ないオペラ歌手のひとりだ。そんな彼が2002年からはじめたのが、このオペラ・プロデュースシリーズ。なぜ彼がオペラのプロデュースをはじめたのか。そして、この舞台にかける思いとは。オペラへの多岐にわたる思いをかたってもらった。

錦織健プロデュース・オペラ Vol.5 ロッシーニ:歌劇『セビリアの理髪師』
提供=ジャパン・アーツ

――まず、そもそものお話を伺わせてください。錦織さんプロデュースでのオペラ公演は、今回で5回目を迎えますが、なぜプロデュース・オペラを始めたんですか?

「アーティストとしてではなく、この業界の1人として、ミュージカルやその他いろいろな舞台公演の上演回数比べた時に、オペラのマーケットをもう少し広げることができればいいなぁって感じたんです。それで、そういう新しいマーケットを開発するためには、そのための公演を作らないといけないと思ったんです。それは生意気だけど私の仕事かなって思い、はじめました」

――実は、私が初めてオペラを観させて頂いたのは、この仕事を始めてからなんです。何となく高尚なイメージもあったんですが、単純に面白かったんですね。難しいことも全然ないし、ステージセットは半端なく豪華で観てて楽しいし、ストーリーも分かりやすくてシンプルだし。もちろん観た演目にもよるんでしょうが。

「観てどう感じるのかって人によるんですよね。舞台物を、ぱっと観てすぐ入っていける人と、全く入っていけない人もいる。全く入っていけない人に、舞台の感激を伝えることは容易ではないと思います。そういう人にどうやってチケットを買ってもらうかっていうのがポイントですね」

――確かに私も観れば全然楽しかったんですが、きっかけがなかったら、行くことはなく、それに気づくこともなかったかもしれません。

「オペラは敷居が高くないですよって啓蒙が今までよくなされてきたけれど、そういう啓蒙自体が何だか敷居を感じさせるというか。そういうところが逆にもしかしたら二の足を踏む場合もあるのではないかと。私の場合は、敷居はもちろんあるし、現代人が馴染めない様式もある。だけどそういうものは克服可能というか、知らない間にスルー出来てしまうということを啓蒙したいんですよ」

――確かに! つい私もそんな難しくないですよって言っちゃいがちです・・・(苦笑)。

「だってよしもと新喜劇に対して、敷居は高くないですよ、なんて誰も言いませんから。それは敷居がないからでしょ。敷居があるからわざわざ言うわけですよね。そこで緊張しちゃう人もいるので、逆に敷居は認める。だいたい日本人の我々が歌舞伎を観ても分かりにくい場面もあるくらいですからね。オペラは歌舞伎と出来た時期は同じで、しかもヨーロッパの芸術なので、歌舞伎より難易度があると思っています。そう考えれば、ある種の様式の違和感はあると。しかしながらその違和感は簡単にスルーできる。そういう工夫をした公演をしています。ただし、だからといってオペラの本質的な姿を失ってしまうとどうしようもないので、妥協点を見つけて、観て頂こうという企画ですね」

――スルーできる工夫とは、具体的にどのようなことをされてるんですか?

「そういうあらゆる違和感というものは、笑いか涙の極端な感情でスルーできると思ってるんです。ゲラゲラ笑うかボロボロ泣けば、あんまり細かいことが気にならないですよね。そういう極端な感情でなく、微妙で複雑なものになってしまうと、様式が邪魔をして入っていけないこともあると思うんです。あ、初心者には、ですよ。入ってしまったら、そこからどんなものでもありなので。そしてそのハードルを越えるのは笑いと涙だと」

――錦織さんのプロデュース・オペラのこれまでの演目からすると、喜劇が多いようですが…。

「悲劇は、大合唱団だったり、宮殿のセットだったり、大掛かりなオペラが多いんですよ。私の一座は旅回りの一座なので、そんな膨大な人数や舞台装置は準備できない。だから必然的にお笑いということになります。それに、お笑いの方が個々のパーソナリティを生かすことができるんですよね。だからキャスティングはいつも慎重に決めてます。個々の役者の癖までも取り入れた個性で場をもたせられる人をキャスティングしてる。そこでまず笑ってもらう」

――他に、何か工夫されてることはありますか?

「後は例えば外国語の違和感。外国語の芝居を観る人なんて一般的にはいないですよね。だけど音楽と密着してるので、どうしても外国語で聞いてもらうしかないんです。じゃあ、どうするばいいかって話で、字幕はよくあるんですけど、字幕だけじゃなくストーリーの説明の余地がないってことが重要だと思うんですよ。今回の『セビリアの理髪師』も、他愛のない話なので、そこで問題は解決できるんじゃないかな」

――笑いとストーリー、ということですね。

「それで1回観に来て頂いて、18世紀の様式的な部分は、何となく面白いことをやってるってことでスルーしてもらって、音楽と全体の笑いを楽しんでもらいたい。観終わった時に、何か分からないけどゲラゲラ笑ってるうちにオペラを1本観たなってことになってもらえれば、次の作品にいけるんじゃないかと思います。1本観るまでの過程が大切ですからね」

――オペラは舞台セットとか人数を考えるとどうしようもないんですけど、チケット料金も高いから、なかなか一歩踏み出しずらいですもんね。

「そうですね。1万円を越えるっていうのは、一般の人にはかなり出費ですよね。今回の公演は、オペラとしては安い方なんですけど、それを言ってもみんな絶対金額で見ますから。それこそ映画は1800円で確実に楽しませてくれるのに、映画の10倍近くのお金を払うなんて博打みたいなもんですよ。そこのリスクはよく分かってます」

――先ほどストーリーの分かりやすさという話が出ましたが、オペラの人気演目とされるものは、比較的分かりやすいものが多い印象があります。

「オペラって歴史上作られたものは、実は3万曲ぐらいあると聞いてます。でも現代よく上演されてるものは30演目ぐらい。だから面白くないものも多かったのでは(笑)。だから残ってる30演目は、ストーリー的にも、それほどおかしくないものが生き残ってるってこと。なかにはストーリーよりも音楽の凄さでもってるものもあるんですが、そういったものはマニア向けだと私は思ってます。ストーリーがよく分からないものや、あまりに哲学的だったりするものは初心者には向かない。私の考え方の出発点は、マニアとビギナーは求めてるものが違うとはっきり言い切ったところからはじめてます。そこから、ビギナーが楽しめるということを追求し、それに特化してプロデュースしてるんです」

――では演目もその考えのもとに選んでいってるんですね。

「そうです。あと僕のシリーズってモーツァルトとか18世紀ぐらいのものが多いんです。それはその時代の作品にオペラの根源的な様式が込められてると思っているから。最近のものだと、いろいろなものとフュージョンしながら変化している。だから、オペラのオペラたる特徴が最も分かってもらえるのは古いものかなって考えがあり、あえてそういう演目をセレクトしてます」

――オペラのオペラたる特徴とは?

「オペラの醍醐味って、いろいろ意見はあると思いますけど、私は歌手の鍛え上げたテクニックだと思います。それを武器にした作品をやっぱり聞いてもらいたいんです。クラシック以外の分野の人は、真似したくても出来ない歌なんですよね。なかにはミュージカルの人でも頑張れば歌えるようなオペラもあるんですが、この時代のものは難しい。そういうところも売りにしていきたいですね」

――キャスティングも錦織さん自身がいちから選んでいるとのことですが。

「キャストは、ロッシーニいのオペラになると、誰でも歌えるというわけではないんですよ。このぐらいの時代は、歌手中心の時代だったので、歌の難易度を競うような曲が多いんです。そうやって歌える人が少ないうえ、アクロバティックに歌ったあとにギャグをかませる人はもっといない(笑)」

――ギャグって(笑)

「セリフはイタリア語ですし、字幕見ただけでは笑えないですよね。だからギャグっていうのはボディアクションやヘンな声とか(笑)。あまり説明の必要のないギャグが多いので、そこでも楽しんで頂いてますね。よく言ってるのは、キャストはフィギュアの3回転半したあとにギャグをかます、そういう過酷な要素があるんです」

――今回のメインのキャストの方についてご紹介して頂けますか?

「ロジーナ役の森麻季さんは国民的歌手になりつつありますが、最初から構想にいれていました。以前に『セビリアの理髪師』をやったときも彼女にやってもらったんですよ。前回の公演の『愛の妙薬』のときもやってもらったし、看板女優みたいな感じで。あとはフィガロ役の堀内さんは、イタリアでずっと歌ってる人で、日本トップのバリトン。ラブコールを送って出て頂きました。私はアルマヴィーヴァ伯爵で。プロデューサーだから出ていると思われても…いいんですけど(笑)、この種のものは結構得意なんです。最強布陣ですね」

――このシリーズは、ツアーで各地をまわってますよね。あまりない形態での公演だと思うんですが。

「オペラの移動公演は少ないんですよね。日本トップレベルの歌手で全国を回りたいとは昔から思ってたんです。オペラって上演回数が少ないんですよ。ミュージカルだったら何千回というのがあるのに、オペラはだいたい1演目で4夜はなかなか大変。出来て3夜。ということは、首都圏でさえコアなオペラファンの方は2、3万人ぐらなのかな。だからもっと全国にマーケットを広げないといけないと思ったんです。あまりオペラを上演したことがない土地でもやりたいということで全国でやってます」

――演じる側とお客さんの関係も大切ですよね。

「僕は今までやってきたことを否定するつもりは毛頭ないんです。でも別な世界も作らないといけない。今はいろいろと不況だし、オペラ自体が生き残っていくのが難しいんじゃないかと思ってます。もちろん細々と永久に生き残っていくとは思いますよ。マニアは一定の人数いますから。仮に日本人で1万人だとして、その人たちが毎晩ブログに書いていれば、何となくそういう世界があるように見えますよね。でも興行は苦しいってことになるので、なるべくライトなファンを増やしたい、ということです」

――クラシック界に関わってる人と話していると、裾野を広げたいとおっしゃる方は多いです。錦織さんがこのシリーズを始めたのは2002年からですが、その頃からその必要性を感じていたんでしょうか?

「私自体、ここまでたどり着いたいきさつがね。本当はクラシック業界で頑張ってここまできたんですけど、コーヒーのCMでデビューしたんじゃないかって言われたり、誤解されてる部分もあって(苦笑)。そういうこともあって、ずっと真面目にクラシックをやってた人には及ばないところはあるかもしれないけど、逆にクラシックしかやってこなかった人にはない視点も持ってると思ったんです。ただの芸術追求だけじゃないところに力を発揮できるところがあるんじゃないかと、ずっと身構えてはいましたね」

――その頃と比べても、今の方がどんどん尻すぼみになってしまうような危機感を感じてる人が多いのように思います。

「僕はオペラ界自体はそんなに変わってないと思います。だけど日本がこうなってきたので、そのひとつの現象として、あらゆることにみんなが危機感を持ってきたのではないかと。あとは、補助的な部分で、国や自治体のサポートがが厳しいことになってきてもいますしね。でも逆にみんなの気持ちがひとつになるのかなって思ってはいます」

――オペラって、日本人の文化にはないものじゃないですか。それを日本で馴染ませるにはどうしたらいいと思いますか?

「それについてはあまり大げさには考えてないです。例えば我々だって平然とポップスを聞いていますよね。レディー・ガガを聞いてる人も全員が英語を理解して聞いてるのかっていったら、何か分からないけどあのファッションが好きって人もいるわけじゃないですか。結局、だんだん文化的にボーダレスになってきてるんです。昔はもしかしたら説明が必要だったかもしれないけど、今は好きだから聴いてる、興味があったからってだけでよくて。そもそも外国の芸術じゃないかとか、言語が違うじゃないかっていう反論はスルーしていい時代になったと思ってます」

――ただやはりオペラっていうと、その時代の文化が反映されてたりもしますよね。

「なぜ私がオペラを好きだったかというと、私は単純に映画が好きなんですね。ゼフィレッリの『ロミオとジュリエット』や『ブラザー・サン シスター・ムーン』とか、ああいった古いヨーロッパの雰囲気に憧れたんです。貴族が恭しく礼をするとか、ドレスを着たご婦人とか、ナイトとかね。私も田舎の生まれなんで、女性を階段から降ろすときに手を添えてチューするなんて、どうなってんじゃい!って(笑)。あんな世界はいいなっていう漠然とした憧れの延長ですね。今、ヨーロッパの若者が日本のキャラクターに憧れてたりしてますが、そういうのと同じで異文化の特別なキャラクターに憧れた。そういうものが顕著に出てるものがオペラだったんです。そういうものもオペラへのきっかけになるんじゃないかな」

――ビギナーが入りやすいいろいろな工夫がされてるのはよく分かりました。それでもこれから行く人に対して、何か準備しておいた方がいいものってありますか?

「私が提案してるのは、開演時間じゃなくて、開場時間にきて、ちょっと散財させてしまいますけど、パンフレットを購入してもらうと。そこにはストーリーなりエッセイなり、いろいろあるので、それを読むということだけ開演までの時間にしてもらえれば、おそらくぐっと距離が近づきます。あえて予習とかは大変だし、人によって理解度が全然違いますしね。せめて人間関係でも知って頂ければいいかなって思います」

――今日は私も勉強させて頂きました。最後に初めてのオペラに踏ん切りがつかない人に一言お願いします!

「最初っからビギナーの人に楽しんでもらえるよう工夫してますので、安心して来てください。笑わせまっせ(笑)」

 

(3月23日更新)

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